雲乃みい様:ドーナツタウン
エトセトラページに載せている、
「ネイトの初恋(?)は事件を担当してくれた中年男性の刑事さん」
というオマケエピソードをSSにしてくださりました
樹海の糸
『―――』
受話器から聞こえてきたのは女性の声だった。
「―――」
一言告げ、ネイトは受話器を置いた。
間違えました、と告げた言葉は間違いで、間違ってはない。
ネイトがかけた相手とは別の相手が出た。
だから、切った。
だが……―――とネイトは自嘲の笑みをこぼした。
手の中にある一枚の名刺。
そこに書いてあったプライベートナンバー。
『なにかあったらいつでもかけてきなさい』
そう言い名刺を渡したのはあの事件を担当した刑事だった。
親切な"大人"だった。
自分の話をきちんと聞き、子供だとあなどることなく理解しようとしてくれた人。
"なにか"あったわけじゃない。
電話なんてかけるつもりなど最初からなく。
受け取った名刺を肌身離さず持っていたのは―――理由などない。
自分とそして弟のこれからのことを親身に考えてくれた人だった。
だが"すがる"つもりだったわけじゃない。
電話などするつもりなどなかった。
なのに―――
『hello』
たった一言、聞こえた声が耳に焼きついて離れない。
それがあの人ではなく、女性だったというそれだけだ。
雰囲気からいってきっとあの人の夫人なんだろう。
歳を考えれば、結婚していることは容易に想像できる。
そもそもあの人が結婚していようがしてまいが自分には関係ない―――のだ。
プライベートナンバーに電話してしまったことに、意味はない。
なにも。
くしゃり、とネイトの手の中で名刺がつぶれる。
電話をするつもりなどないのなら、最初からこれは必要がないものだったのだ。
ただあの人が―――優しかったから。
だから。
「……」
ゴミ箱の上で手を止める。
そして手の中のモノを捨てる。
そうするまでにしばらくの時間を要したのいも―――意味などない。
『いつでも電話しておいで』
名刺を渡されたときに、頭を撫でられ、向けられた柔らかな眼差しをいまでも覚えている。
ふ、とネイトの顔に笑みが浮かんだ。
それは"いつも"浮かべてる笑み。
胸の内に、いくつかの想いが浮かびあがろうとして、寸でで消え、底に沈む。
頭の中に、いくつかの想いを選んで、
『そういえば、いい刑事さんだったな。元気だろうか』
と、そう思って電話しただけだ、と考えた。
女性が出て、切ってしまったのには意味はない。
―――かけたこともたいして意味はない。
なにもない。
「リュートになにかお菓子買って帰ろうかな」
そうして大切な唯一の存在を思い出す。
大切な、守って、そばにいたい、大切な、弟。
自分は弟さえ幸せになりさえすればいいのだ、と、何を買っていこうかとネイトは思考を巡らせたのだった。
END
オマケ設定書いておいてよかったー!素敵な話を作ってもらえて感激です。ありがとうございます(*´▽`*)
みいさんのHP『雲の晴れ間から』R18
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