こやま圭様:守×リュート






(クリスマスの話)



あまいあまいキミの味/前



「えっ……カラオケ?何もこんな日まで行かなくても……」
「ごめんな〜!鈴哉がどうしても歌いたいって言うからさぁっ!」
「なっ……お前がっ……」
「……」

今夜はクリスマス。
毎度ながら橋本兄弟が遊びに来たので、守は皆でゲームでもして楽しく過ごそうと思っていた矢先の外出宣言。
唇を尖らせ残念がる守の死角で、リュートは無言で鈴哉を睨み付ける。

「って、わけだから俺ら帰るの遅くなるからっ」
「……」

突き刺すようなリュートの視線に苛まれ、鈴哉は目を逸らす。
その様子すらも楽しむかのようにネイトは鈴哉の袖をグイグイと掴み、家路を後にした。



しんと静まり返ったリビング。

「ちぇ…みんなでゲームやりながら食おうと思ってケーキ買って来たのになぁ」

ネイトと鈴哉がこれからするであろう事を想像すると腹立たしさを覚えながら、リュートは落胆する守の肩をポンっと叩く。

「俺が、ゲーム付き合って……やるよ。俺だけじゃ……不満か?」

下唇をきゅっと噛みながら恥かし気に呟くリュートを、守は瞳をキラキラさせながらぎゅむっと抱きしめた。

「ばっ……馬鹿っ!調子に乗るなっ!」

守の腕の中でじたばたともがくリュートを優しく抱きしめ、癖のかかったふわりとした髪に顔をうずめる。

「ちょっとだけ……こうさせて。もっとリュートの感触を楽しみたい」
「ば……馬鹿」

どれだけの時間抱きしめていただろう?
一分しか経っていないのかもしれない、既に一時間経っているのかもしれない。
一分が一時間にも感じられ、一時間が一分にも感じられる。
腕の中の柔らかな温もりをずっと抱きしめていたくて、守は自らの時間の感覚が既に狂っているような気がした。
ふと我に返った瞬間、リュートの傍に置かれた紙袋を目敏く見つける。

「なぁ……それって何?」

脱いだ上着で、隠すように置かれた紙袋に守の視線が注がれるとリュートは慌てて紙袋を引っ掴んだ。

「なっ……なんでも…ないっ」
「もしかして俺にクリスマスプレゼントでも持って来てくれた?……なぁーんてね」

冗談まじりに笑う守と黙り込むリュート。重くのしかかる沈黙。

「……マ、マジで?俺に?」

耳まで真っ赤にし、俯きながら紙袋を守へと押し付ける。

「バ…バーゲンだったんだっ!すっごい安かったんだっ!お前にくれてやるのなんかこんな安物で充分なんだからなっ!」
「開けて……いい?」

頬を緩ませながら守は返事も待たずに紙袋に手を入れ、綺麗な水色の包装紙に包まれたモノを取り出そうとすると、コツンと硬い感触のモノが指先に触れた。

「……?何コレ」
「……」

包装紙をそっと置き、紙袋の底からソレを取り出すとタッパの中に何やら黒い物体が透けて見える。
ドキドキしながら蓋を開けるとそこに鎮座していた物体は生クリームやカラースプレーで彩りよく可愛らしくデコレーションされたチョコパイだった。

「え……コレ、リュートが作ってくれたの?」
「バッ……余りモンだっ!お前の為に作ったんじゃないっ!家にあった余りモンちょっと載っけただけだからっ!」

一般的に男子の二人暮し家庭に生クリームやカラースプレーが常備してある筈もなく、その嘘は明白だった。
リュートが自分の為に作ってくれたと思うと、たとえ市販の菓子に生クリームを載せただけでも嬉しい。

「やばっ……俺これ食えない」
「えっ……お前いつもミニドに来るからてっきり甘いモンが好きかと。チョコパイ嫌いなのかっ……?」

予想外の反応に戸惑うリュートを、守はぎゅっと抱きしめた。

「こんな美味そうなモン食っちゃったら勿体無い……宝物にする。枕元に飾って毎晩眺めて寝る」
「ばっ……腐るだろっ!さっさと食えっ!」

ガッチリとホールドされた状態で顔を赤くするリュートが愛おしい。
リュートを抱きしめる守の腕に、ますます力が篭る。

「また作ってくれる?」
「き…気が向いたらな。チョコパイが余ったら作ってやる」
「コレ……一緒に食べよ。リュート、先に食べて」
「……?」

タッパから取り出したチョコパイを口元へ運ぶと、リュートは不思議そうな表情(かお)をしつつ一口齧った。

「リュート……食べさせて」
「んっ……」

守の顔がリュートの顔に被さるように近づくと、その真っ直ぐな瞳にドキリとする。
ようやく守の意図を察したリュートは顔を真っ赤にしながら、キュッと固く眼を瞑りそれに応えた。

「ん……リュートあまっ」
「はぁ……」
「もっと……食べさせて」
「ばっ……チョーシのんなっ!」

湯気の出そうな程顔を上気させ、リュートは齧りかけの残りのチョコパイを守の口に突っ込んだ。

「りゅーと……ひほい……」
「お前が調子にのるからだっ!」

口内に突っ込まれたチョコパイを齧り、飲み下し、ちゅっとリュートの唇をついばむ。

「ん……リュートも、俺の唇……甘い?」
「……言わ、せんな」


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