でん六様:ネイト×鈴哉




(漫画の該当ページがR15なので、小説もR15でお願いします)







(「I hate…」で鈴哉が殴られる直前の話)



トリアージ


いつものホテル。
俺の上で、ネイトが動いている。
慣れない俺に急激な負担がかからないように、最初はゆっくりしたペースで。
彼が動くたびに、ベッドが小さくきしむ。
今夜初めて、ネイトを受け入れた。

「スズ……」

繰り返し俺の名前を呼ぶ、声。

黙っていたらネイトの脳内は、リュートのことであふれてしまうんだろう。
ぼやけた視界の中で、ネイトの髪が揺れる。
俺たちは、波間を漂う頼りない小舟のようだ。

ふと俺は、『カルネアデスの板』の逸話を思い出した。
そこから派生した、よくあるたとえ話。

リュートと俺が海で溺れていて、どちらか一人しか助けられないとしたら。
ネイトはどうするだろうか。
――こいつは、何の迷いもなくリュートを救うだろうな。
そして俺は、「ああ、そうだよな」と思いながら沈んでいくんだろう。
あんまり俺、何がなんでも生き延びたいとか、ないしな。

そして守とネイトが溺れていて、リュートがどちらかしか助けられないとしたら。
――彼には選べなくて、パニックに陥るに決まってる。
ネイトは溺れていることに気づかれないよう、自分から遠くに泳ぎ去るだろう。
ぎりぎりの力を振り絞って。
残されたリュートが嘆き悲しみ、一生のトラウマにするのを知っていて。
けれど、どこかで満足して沈んでいくだろう。

「『スズ』……」

腰を遣いながら、守と同じ呼び方で、俺を呼ぶネイト。
俺の内部に、彼の存在を感じる。
それは的確に、じわじわと、体の奥底から快感を誘い出す。
けれど同時に、胸の奥が痛んだ。

――お前それ、俺が喜ぶと思ってやってんのかよ。

ちょっと、むかついたから。
俺はネイトの肩をつかみ、その耳元に囁いた。

「……『兄さん』」


END

カルネアデスの板、きっとそうなるだろうなぁと思います。守は自力で泳ぐから大丈夫ですね(笑)☆


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