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●風船の話(ネイト)●

昔、ぼくは沢山の風船を持っていた
それはいろんな色があった

悲しいことがあると、ぼくは赤い風船をとばした
きれいだね、と弟は笑った
赤い風船がなくなると、今度は青い風船をとばした
きれいだね、と弟は言った
青がなくなったら黄色を、黄色が無くなったら緑を
ぼくはどんどん風船をとばした

いつしか、弟はなにも言わなくなっていた

大人になるってことは、風船をひとつずつ手放していくことだ
そう気づいた頃には、ぼくはもう、風船なんかちっとも欲しくなくなっていた



●つみきの話(鈴哉)●

友だちとつみきのお城をつくった
がんばったかいあって、それはそれはりっぱなお城だ

友だちの母さんが迎えにきて、お城を見るなり目を丸くした
「ふたりで作ったの?まぁすごい!かっこいい!」
ぼくたちは嬉しくてジャンプした

友だちが帰ったあと、しばらくしてぼくの母さんが迎えにきた
学校の先生で、頭が良くて、いつも正しいぼくの自慢の母さん

「お母さん見てよ、お城を作ったんだよ!」

母さんはじいっと見ると、すぐに、もっと大きなお城をつくってしまった
ぼくたちのお城より、ずっとずっとりっぱなお城をつくってしまった
「大きなつみきから重ねていけば、もっとよくなるわよ」

学校の先生で、頭が良くて、いつも正しいぼくの自慢の母さん

ぼくは胸がばくはつしそうになって、唇をかみしめた
がんばったのに!がんばったのに!

かんしゃくを起こせるほど子どもではなく 苛立ちの原因を理解できるほど大人でもなく
大きなお城の作り方を知ったぼくは、けれどその日からお城をつくらなくなった



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