桜雪猫様:ドーナツタウン
ゆきレモンさんのクリスマスイラストにSSをつけてくださりました!
【サンタな天使の贈り物(守×リュート)】
「なんだ、これ?」
目の前に唐突に置かれたラッピングされている真っ赤な袋を怪訝そうに見ながらリュートが守に尋ねる。
「何って、クリスマスプレゼント」
いつも通りのへらへらした笑顔を浮かべて守が壁を指差した。その指先を追うように壁にかかっているカレンダーに視線を移す。
そう言えば今日は12月24日…クリスマスイブだ。世間一般のそういう類のイベントにあまり興味がないせいか、特に気にしたことがなかった。
「悪い、何も準備してない」
「いいって。オレがリュートにプレゼントしたいから準備しただけだし」
「でも……」
一方的に貰うのはなんとなく気が引ける。そんな気持ちを知ってか知らずか、守はさらに満面の笑みで袋を差し出してくる。
「いーの、いーの。プレゼントはこれからちゃんともらうから」
「はぁ?」
何も準備していないと言っているのに何をもらうつもりだというのだろうか?
こいつの考えは正直、突飛過ぎて予想がつかない。
「開けてみて」
「あっ……あぁ…」
ワクワクという擬音が聞こえてきそうなほど、守が何かに期待していることは分かる。たぶんこの袋の中にはこいつが望むような反応をオレがするであろう物が入っているのだ。
ドーナツとカレー以外で守が好きなものをオレはほとんど知らない。それでもオレの反応で守が喜ぶなら悪くはない。
リュートは真っ赤な袋の口を縛っていた金色のリボンを慎重に解き、中身を取り出した。
「……なんだこれ?」
目の前に鎮座するプレゼント本体に一瞬我が目を疑った。
「なにって、見て分かんないかなぁ?」
そんなわけあるか!
一目見たらどんなに小さい子どもでも何であるかを理解するだろう。それぐらいインパクトの強い代物だった。
「……これをオレにどうしろと言いたいんだ?」
「もちろん着てみてよ。絶対に似合うから」
嬉しくない。こんなものが似合って嬉しいのは白髭自慢のオヤジぐらいなもんだ。
「……なんでオレが」
「俺のためのクリスマスプレゼントだと思ってこの通り!」
目の前で拝む守と“プレゼント”を交互に見る。乗せられている感は否めないが、準備を怠った自分にも非はある。
「今日だけだからな……」
リュートはため息をついて苦笑を浮かべると“プレゼント”を手に取った。
何だかんだで守には弱いリュートだった。
―5分後―
「……これでいいのか?」
不服というより照れ臭さを押し隠すための仏頂面でリュートは着替えた姿を守に見せた。
「うわ〜やっぱり買ってよかった〜。ロ●ト最高!!」
どうやら黄色い看板が目印の某雑貨店で購入したらしい。満足気な守は自画自賛しながらはしゃいでいる。
ふと、守も妙な格好をしている事に気付いた。
「……いつの間に着替えた?というか、なんだその格好は!」
「なに?ってトナカイじゃん。サンタにトナカイは付き物でしょ」
そう。守が着ている茶色の着ぐるみパジャマはまごうことなきトナカイだった。そして、自分の服装は10人に聞けば10人から同じ回答が返ってくるであろう、どこからどう見てもサンタクロースだ。
「お前、バカか!なんでプレゼントでサンタの衣装なんだよ!」
「え〜喜んでくれないの?すっげえ似合ってるのに〜」
「コスプレさせられて喜べるか!結局、お前が楽しんでるだけじゃないか!!」
「……ごめん」
さっきまでのテンションの高さはどこへやら。フードについた角がまるでたれた犬の耳のように見えるほど目に見えて凹まれる。
言い過ぎた。
せっかくプレゼントをくれたのに…。嫌われたらどうしよう……。
色々な感情と思考が身体の中を駆け回る。それでも素直に謝ることができないのは悪癖と言ってもいい。
「でも、まあ、お前がプレゼントをくれたのは……嬉しかった」
傲慢な物言い。素直になれない性格。
こんな自分が嫌で嫌で仕方がない。黒い感情で息が苦しい。
うつむき加減で守から視線をそらす。すると突如、ギュッと抱き締められた。
「リュート!」
「っ!?」
トナカイに抱き締められるサンタ。完全にギャグだ。
誰かに見られたら恥ずかしすぎる。
リュートは守の腕の中で必死にもがくが、そう簡単には逃げられない。
「やっぱりあなたはオレの天使だ」
天使ってなんだ。サンタだろ。
いやそうじゃない。問題はそこじゃない。
「はっ……離せ!サンタ襲うトナカイがどこにいる!」
「え〜ちょっとぐらいいいじゃん。天使でサンタなあなたをもう少しだけ満喫させてよ」
「ふざけるな!」
軽いパニックになっているリュートの思考回路はこの時、平常時の二割も働いていなかったのだろう。
「来年はもうちょっと真面目なプレゼント選ぶね」
優しい笑顔で言われ、リュートは抵抗を止めた。
温かな腕に抱かれてほっと息をつく。
「そうしてくれ。オレも来年はこんなことせずに済むようにちゃんと忘れずに用意する」
さりげなく来年の約束をしたことに全く気付いていないリュート。
「大好きだよ、リュート」
「…………オレも」
真っ赤になってボソッと呟き、上目遣いに視線を上げる。お互いの視線が交わり、どちらからともなく顔を近付けた。
自然と唇が重なる。
サンタな天使のプレゼントは極上の蜜味?
―END―
***************
【新月の聖夜(ネイト×鈴)】
トイレに行った帰り道、ふと最愛の弟と“お友達”の話声を漏れ聞いた。警戒心がなさすぎるのか、信用しきっているのか部屋のドアが若干開いている。
『リュート!』
『っ!?』
サンタクロースの格好をしたリュートがトナカイ姿の守に抱き締められて恥ずかしそうにしている。
『やっぱりあなたはオレの天使だ』
守はリュートに惚れている。まず間違いなくリュートも。
しかしまだそれを互いに恋だとは認めていない。
オレも認めてはいない……。
『はっ……離せ!サンタ襲うトナカイがどこにいる!』
『え〜ちょっとぐらいいいじゃん。天使でサンタなあなたをもう少しだけ満喫させてよ』
『ふざけるな!』
抵抗はしているが、本気で嫌がってはいない。もがくのは恥ずかしいから。
オレの腕の中ではあんな風に緊張したりはしない。その代わり、あんな風に恋人に向けるような熱い眼差しを見ることもない。
自然な流れでキスをする。
今すぐにでも部屋に乱入して邪魔したい。でもそれは弟の幸せを壊すこと。だからそんなあからさまなことはしない。
「リュート……」
重苦しい胸の靄を抱えたまま、オレはスズナリの部屋へと戻った。
「どれだけ長いトイレなんだ。腹の調子でも悪いのか?」
部屋に戻ると参考書から顔も上げずにスズナリは言った。
「違うよ〜。ちょっと寄り道してただけだよ」
「人の家でどこに寄り道するんだ。ったく、先に行けばよかった」
「我慢してたの?ごめんねぇ〜」
からかうような口調で言うとプライドの高いスズナリは無言で立ち上がり部屋を出ていった。
「若いねぇ〜」
たいして違わない年齢を棚に上げてそんなことを口にする。頭の中の雑音が煩い。イライラして両手で髪をぐしゃぐしゃにかき回す。そんなことをしても何も変わらないことは分かっているのに……。
ふと壁のカレンダーに目が止まる。今日はクリスマスイブ――それで“ああ”なのか。
理由が分かって落ち着くどころか雑音はさらに音量を増した。
気持ちを落ち着ける為にヘッドホンをつけ、最大音量で音楽を流す。それでも頭の中の雑音の方が煩かった。
聞き流していた音楽が3曲終わった頃、スズナリが部屋に帰ってきた。
「ずいぶん長いトイレだったね」
「煩い!」
心なしか顔が赤い。15分の行動を隠したかったのか消臭剤の匂いがする。それが逆に行動を明確にしているのだと彼は気付いていない。
頭がいいのにこの辺りはマヌケとしかいいようがない。
「何してたのかなぁ〜」
「ちょっと腹の調子が悪かっただけだ」
「ふ〜ん」
脇に置いていたヘッドホンの音を切る。
頭の中の雑音退治にスズナリを巻き込むことに決めた。
「守の部屋、覗いちゃったでしょ?」
返事はないが背中から緊張感が漂ってくる。バレバレだ。
「クリスマスだもんね。勉強忘れてちょっとぐらい楽しみたいよね」
「センター目前なのに、そんな暇あるか!」
また黙々と問題を解き始める。でもシャーペンはそれほど動かない。集中なんてできてないのだ。
フッと笑って着ていた洋服を脱ぐ。手元にたまたまある赤いリボンは今日ここに来る前に買った菓子についていたもの。それで髪を結んで出来上がり。
「スズナリ」
「勉強中は邪魔を……何してるんだ?」
振り返ったスズナリが目を見開く。
「今日クリスマスだろ。だからプレゼント――オレ」
「……バカか?さっさと服を着ろ。何月だと思ってるんだ」
「すぐに温かくなるじゃん」
ニヤリと笑うと意味を理解したスズナリの顔が不快そうに歪む。
「家の中でそんなことできるか」
「あの二人はラブラブしてるのに?」
共犯のような間柄のオレ達にはお互いの今の気持ちは痛いほどわかる。
どれだけイライラしているのかも。その胸に抱えるわだかまりも……。
「いいから服を着てくれ。あいつらに見られたくない」
「服着たら一緒に外泊してくれる?」
「………………分かった」
迷いの時間の長さがスズナリの純粋さ。それを利用していることに罪悪感がないわけではない。
結局、それからすぐに“ちょっと息抜きに出てくる”とだけ告げて二人で深夜の街に出た。
「今日、真っ暗だね」
「新月だからな」
「クリスマスなのにね」
「関係ないだろ」
全てを覆い隠す新月の夜。クリスマスにそれが当たるのはなんだか面白い。
今から犯す罪を覆い隠しすような暗闇が辺りには広がっている。
もしかするとこれが……
この闇が聖なる夜の贈り物なのかもしれない。
―END―
***************
オマケ
【幸せの温もり(守×リュート)】
「っ……」
何気なく起き上がると身体のあちこちが痛む。
右手で顔を覆い、痛みをやり過ごす。
「大丈夫?」
心配そうな表情の守に覗き込まれる。妙にさっぱりした雰囲気がムカツク。
「大丈夫なわけあるか!いっ……」
叫べばそれは痛みとして返ってくる。
「ごめんね。ありがとう」
相反する二つの言葉が今のこいつの感情を如実に語っている。同意の上なのだから謝ることではないのだ。これは自然な流れだった。
「……別にお前が謝ることじゃない」
「リュート」
後ろから抱き締められる。素肌が触れ合うとさっきまでの事をリアルに思い出して悶絶しそうだ。
「っ、ドッ…ドーナツあったよな。オレが持ってきたの。なんか腹へったから」
逃げの口実なのはバレバレなのに守は抱き締めていた腕を解いてベッドをおりる。
差し出された箱から適当な一つを選ぶ。守も一つ手にしてベッドに腰掛ける。
パクっと一口かじる。隣では守もドーナツをほおばっている。
恥ずかしくて自分から逃げたはずなのにふとあの腕の温かさが恋しくなる。
俯きかげんでもう一口。ぼんやりと自分の中でさっきまでを反芻する。
男性としては線の細い自分と違って健康的で力強い腕。
その腕についさっきまで抱き締めていたのだ。夢ではないかと疑いたくなる。
「リュート、ついてるよ」
「ひっ!?」
不意討ちで頬を舐められた。驚いて顔を上げると背後に守がいた。
背中にまたあの温もりを感じる。
「やっぱりあなたはとっても綺麗だね」
男だから綺麗と言われても普段ならあまり嬉しくない。でも守にそう言われると自分がこの容姿でよかったと少しだけ思える気がする。
「オレの天使」
「バカ……」
苦笑を浮かべたまま、交わる視線をそっと閉じた。
あの温かな口づけをもう一度期待するように……。
―END―
ゆきレモンさんの暖かなイラストにピッタリの、甘く可愛いSSに感動です。
マモリュは歩く地球温暖カップルですね(笑)。コラボ、本当にありがとうございます(n*´v`*n)
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