マジコ様:ネイト×鈴哉
(漫画の該当箇所がR15なので、小説もR15でお願いします)
(「I hate...」の鈴哉の独白)
幼いころ俺は、
幼いころ俺は、キスは好きな人とするんだろうと思っていた。好きな人と付き合って、好きな人と手を繋いで、好きな人とキスをするんだと当たり前のように思っていた。
幼いころ俺は、また、セックスは好きな人としかしないと信じていた。好きでもない人間と関係を持つのは不誠実だと思っていたし、身体だけの関係なんて最低なことだと、そう思っていた。
幼いころ俺は、俺が全うに恋をして、俺が全うに人と付き合い、俺は全うに生きていくんだと信じていた。
だが蓋を開けて見れば俺は、男にしか反応しないゲイで、親友に恋をして、恋した相手とは別の男を抱いている。
キスも、ハグも、セックスすらも、好きな人とは別の相手とした。俺は、セックスは好きじゃない相手とでもできるのだと知った。いやむしろ、俺は永遠に好きな人とセックスができないのだと思い知った。
幼いころ俺が想像していた未来と、俺は真逆のところにいた。
*
ネイトに初めて抱かれた。
それまで俺は、ネイトを抱くことはあってもネイトに抱かれることはなかった。
いつもネイトが俺を受け入れ、俺はネイトに吐き出すだけでよかった。ネイトは俺を受け入れるだけで、俺になにも求めてこなかった。俺になにも強要しない、期待しない。俺にはそれが楽だった。
だが、今回、今回はじめてネイトが求めてきた、と思う。俺にはじめて弱さを見せたとも思う。俺は、受け入れる側をしたことも、するつもりもなかったが、初めて見るネイトの様子に、つい、そう、ついだ。深い決心があったわけではないが、ネイトに抱かれることになった。身も蓋もない言い方をすれば、流されたのだ。
抱かれてみてはじめて気付いたことがある。
俺は、セックスをする前、ほんの少し前だが、まだ童貞だったころ、セックスをすればそれだけで世界が劇的に変わるのだと思っていた。
だが、実際にセックスをしても世界は劇的には変わらなかった。当たり前だ。いや、何も変わらなかったわけではないが。
少なくとも俺は、セックスを―ネイトを抱くことで、自分のなかの殻をひとつ破ることができた、と思う。こいつのおかげで俺は、自分の性を、自分の歩く道を、少し認めることができた。
同じく、セックスをする前の俺は、セックスをすれば、その相手との距離を縮められると思っていた。抱き合って、キスをして、セックスをすればその相手と近づけると思っていた。事実、ネイトを抱いたとき、俺はネイトに近づいたように感じた。
だがそれは、ネイトに抱かれてから、俺の錯覚であったと気付いた。
俺を抱きたいと言ったネイトは、確かに俺を求めていたのだと思った。初めてネイトから求めてきたのだと思った。だが実際にセックスをして、俺とネイトの距離は縮まったかどうか。
ネイトは俺を求めるようでいて、決して俺を見てはいなかった。俺を抱きながら、心は別のところにあるのだと知った。抱き合って、身体はこんなに近いところにあるのに、俺たちの心はけして交じりあうことはなく遠くに開いていく。抱き合えば抱き合うほど、俺たちは遠い。ネイトに求められて初めて、ネイトの拒絶を知った。
幼いころ俺は、セックスをすれば相手の心にも近づけると信じていた。
だがあいつは、俺が触れようとすれば触れようとするほど離れていく。近付いたと思えば、拒絶される。近付けば近付くほど、ネイトは自分のなかに誰も入れる気がないのだとわかる。
あいつは、あいつの世界の中に、あいつと弟しか入れる気がないのだ。
そして、なによりあいつは、自分の心が他人に近付くのを良しとしないのだ。
俺は、あいつに抱かれて、あいつとの距離を知った。思っていたよりずっと遠く、抱かれる前よりもあいつと俺の距離は遠くなったのかもしれない。
セックスをしたら相手と近付けるなんて幻だ。
だが俺は、あいつとの距離が遠くなった俺は、あいつの激しい拒絶を知った俺は、あいつの心の、隠れた部分を初めて見た気がして。俺は。
あいつとセックスをして俺は、確かにあいつに救われた部分がある。
あいつだって、誰かにキズを癒されることを拒絶するあいつだって、少しは救われていいはずだ。
友情だとか愛だとか、ましてや恋だとかでは決してないが、俺は、あいつの心に近付いて、あいつのキズをふさいでやりたいと、ちりちりと痛む心のすみで、お節介にそう思った。
END
抱き合うほどに遠く感じる、これぞ切な萌…(*;ω;*)!鈴哉にもネイトにも、心通うHをさせたいです。
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