雲乃みい様:鈴哉×リュート

本編にないカップリングなので苦手な方はご注意ください

(初デート:鈴×リュート)



『不器用なぼくら』




ランチして、映画見て、お茶して、買い物して。
そんなありきたりなデートプラン。
付き合いはじめてまだたった一週間の初めてのデートだから無難にしようと思った。
そしてその結果が―――。
「……これ、買ってくる」
手にした参考書をリュートに見せ、俺はレジへと向かった。
ちらり顔を上げたリュートは頷いたけどすぐにずっと目を通していた本に再び視線を落としていた。
レジカウンターで参考書を店員に渡しながらつい落ちてしまうのはため息だ。
初めてのデート。
緊張しないわけがない。
だから無難にと立てた計画はお茶のあと書店に寄り、もう完結してしまいそうになっている。
ついで言えるのは"盛り上がっていない"ということだ。
店員が参考書を包むのを眺め、そっと後方を振り返った。
参考書のあるコーナーはレジから見える。
もちろんリュートの後ろ姿も。
その背中からはなにも読み取れない。
一人ふらり書店に入ってきて立ち読みしている、そんな客にしか見えない。
……別に俺が先に帰ると言っても何の反応もせずにそのまま読み続けるんじゃないか、という気さえする。
「お待たせしました」
店員の呼びかけにハッと我に返って商品を受け取るとリュートのもとに戻る。
初デートで緊張してるのか少しネガティブになってるのは自分自身わかっていた。
「リュート」
傍らに立ちどうしてか緊張してしまいながら呼べば、「買ったのか」とリュートが俺を見る。
頷くと読んでいた本を棚にしまった。
「お前は買わないのか?」
「今日はいい」
「そっか」
「……」
「……じゃあ、出るか」
「ああ」
それ以上の会話はなく、書店を出る。
適温だった書店の外は肌寒く雑多な人混みで、俺はどこに行こうかと視線を走らせた。
腕時計を見ればもうすぐ5時。
なんとなく足を向け歩き出したのは駅方面だった。
横目に見るリュートはただ前を見て歩いていて、その顔は無表情。
今日会ってから今まで、笑顔を見たのはゼロ。
もし一緒にいるのが俺じゃなく守やネイトならきっといくつもの笑顔やいろんな表情を見せるんだろう。
守は俺と違って場を盛り上げるのがうまいし、ネイトはこいつの兄貴だし、当然といえば当然なんだろうけど。
会話がなく歩き続ける俺達。
今日はずっとこんな調子だ。
―――なんでリュートは俺を選んだんだろう。
別に俺といても楽しそうでもないし。
出会ったころは嫌われてる気さえしていたし。
俺だって最初は苦手だと思っていたけど、今はなにを話せばいいのかわからないくらい緊張して、なにか失敗してリュートに呆れられたらどうしようかと不安になるくらい好きになっている。
「……」
無言の状況を打破できないかと口を開きかけたけど言葉は見つからずそのまま口を閉じた。
どんどん道は進み、駅が近づいていく。
「……おい」
駅口が見えてきたころリュートの声がした。
今日初めてリュートから喋りかけられた気がして少し嬉しく、そしてなんだろうと不思議に見かえした。
「どうした?」
「どこに行くんだ?」
「……」
「……」
どうしようかと迷い―――。
「……もう5時だし、帰るか」
俺は逃げた。
今日は準備万端で来たつもりだったけど、会話も弾まなかったし、次は挽回したい。
とりあえず今日は帰って、次の計画を立てよう。
今日の反省すべきところも考えなきゃいけないな、と足を進めていく。
けれど、不意に動けなくなった。
いや動こうと思えば動ける。
「……なに?」
でも俺の袖を掴んできたリュートの手を振りほどくことなんてできない。
驚いて足を止めたリュートを怪訝そのままに問えばリュートはなにか言いたげに口を開いた。
「……」
「……」
何度か口を閉じては開くを繰り返している。
本当にどうしたんだろう?
「リュート?」
「ま、まだっ」
「え?」
「"まだ"5時だろ。お前、小学生かよ。"まだ"帰るには早いだろっ。夕飯だって食ってないし。それに……」
それに、とだけど言葉は続かずに、リュートは顔を背け唇を噛みしめた。
俺の視界の中にいるリュートの頬が赤らみはじめて耳までその色に染まっていく。
「……」
「……」
人混みの喧騒なんて耳に届かなくなった。
車の走行音もクラクションも、俺達の傍を行きかう人の流れその喋り声、なにもかもが遠のいて聞こえる。
それに、と弱々しくもう一度リュートの口が動いて。
「……まだ一緒に……いたいし」
「……」
「……」
「……」
一瞬聞き間違えかと思ったけれど、自覚するより早く俺の顔も熱を帯びていくのがわかる。
ひたすらにびっくりした。
まさかリュートがそんなことを言うなんて。
いや俺だって同じ気持ちだけど、でもリュートは―――……。
頭の中が軽く混乱してしまい反応が出来ずにいたら、俺の袖を掴んでいた手から力が抜けるのがわかった。
俺から離れていく手―――を、慌てて握りしめる。
瞬間、小さくその身体が震え恐る恐ると言った感じでリュートが俺に視線を戻した。
不安そうな目が俺を窺うように見つめて、ふと自分の顔が緩むのを感じた。
そうだ……リュートだって口下手な方だし、なにかと騒ぐ方じゃない。
俺と似たようなもんだった。
と、気づけばおかしくて、きっと今日も緊張していたんだろうと考えると気持ちも緩んだ。
握った手を繋いで、
「リュート」
呼びかける。
きっといま自然に笑えてる。
「どこか行きたいところ、あるか?」
だからリュートも俺を見て、ほっとしたように今日初めての笑顔を見せてくれた。
緊張も不安もお互い一緒なら、それを解消するのも一緒に少しづつ歩んでいけばいい―――。
ぎゅ、と繋いだ手を握りしめて、リュートの笑顔を胸に閉じ込めた。



END
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(おまけ)


初デートも本当に終わりの時間。
あれから買い物して夕食をとってからリュートの家まで送ってきていた。
秋も深まってきていて9時近くの夜は暗く寒い。
「じゃあな」
「ああ。今度は遊園地でも」
「……なんで遊園地だよ。ガキかっつーの」
そんな悪態つきながらもリュートは楽しそうに笑っている。
「おやすみ」
「おやすみ」
長いデート、過ごせば過ごすほど別れるのが寂しくなる。
「……リュート」
俺に背を向けようとしたリュートを呼び止めた。
「なんだよ」
「……あの」
「……」
「……」
「……」
「……ったく!!」
痺れを切らしたように叫ぶリュートの声がしたと思ったら、いきなり近くにいた。
は、と思った瞬間、ほんの一瞬だけ唇に温かいものが触れて離れていった。
「今度はお前からしろよ!」
上擦った叫び声が聞こえて、目を見開く。
「え、ちょ」
リュート、と呼びかける前に真っ赤になった横顔が見え、だけどすぐに後ろ姿にかわってリュートは部屋に入っていってしまった。
唖然呆然とたぶん10分くらいその場に立ちつくしていたと思う。
「……今度」
口元を押さえ"次"を想像して、バカみたいに下半身に響いてその場にうずくまった。
そこからさらに10分ほど夜風で身体を冷やして―――。
「……観覧車で……がいいかな……」
なんてことを考えて俺も帰路についたのだった。

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まさかのカップリングが…(*゚Д゚*)!おおいにアリだと思います!守はネイトとくっつけばいいんじゃないかな(笑)


みいさんのHP『雲の晴れ間から』R18



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